ギャッベの価格、絨毯としての成り立ち、イランの遊牧民が織る環境
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最終更新日:2018/03/09
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今、ひそかに人気がでてきているのがギャッベ。ギャッベとは、ペルシャの遊牧民族の手によって作り上げられている手織りの織物のことです。
手作業と自然素材にこだわるギャッベの作り方やペルシャ絨毯との違いなどの歴史を紹介します。
**目次**
1.ギャッベとは
ペルシャとは、イランの旧名。1934年まではイランのことをペルシャと言っていました。
ギャッベはイラン近辺で遊牧民によって作られている織物で、羊の毛を原料に手作業で作られています。
高地で、遊牧民と共に生活をしている羊は、とても上質な純毛を持っており、この毛を刈り取り、手で大切に紡ぎ、そして植物を使って色を付け、心を込めて織られています。
ギャッベを作り上げる作業はほとんどが手作業のため、出来上がりは一つ一つ違う趣を持ち、全て一点ものとなるのです。
2.ギャッベの価格
200×140センチ前後サイズのお値段は、手織りでなく機械織りのインド製などで、3万円程。
ハンドメイドのペルシャ製だと、柄の作り込にもよりますが、10万円程はします。
一回りサイズの小さい、100×140センチ前後サイズのペルシャ絨毯のお値段が、絹だと200万円、羊毛で100万円弱ほどであるのと比べると、お得感があります。
3.ギャッベができるまで
(photo photoAC )
ギャッベは、以下のような手順で、天然の羊毛を使い、天然の色素で色を付け、そして手作業で仕上げていきます。
(1)糸をつむぐ→(2)つむいだ糸を染める→(3)織り機で織る→(4)バーナーで焼き焦がす→(5)洗う→(6)乾燥させる→(7)毛足の調整→(8)最後の調整
一つ一つの工程も、そのほとんどが手作業です。詳しく見ていきます。
(1)糸をつむぐ:
紡績を使って、1本1本手作業で紡いでいきます。
羊の毛は個体によってばらつきがあり、太い部分、細い部分を熟練の技で紡いでいきます。1日につむげる量は150グラムほどと言われています。
(2)糸を染める:
つむいだ糸は、上質ではあるのですが、それでも等級に分けられます。
自生している植物を使って、羊毛を大釜で煮詰め、染色します。
(3)織り機で織る:
日本でよく見かける、座って使う織り機のようなものではなく、地面に置かれた水平織り機を使って作製します。
驚くことは、図面がないということ。デザインは織る人に任され、自然の風景や鮮やかな色どりなどが織りあがっていきます。
(4)バーナーで焼き焦がす:
せっかく織ったのにモッタイナイ!と感じますが、製作をつづけていく上で大切な作業の一つです。
織り上げたものの裏面を、バーナーで焼き焦がすのです。そうすることで、無駄な部分を焼き切ることができ、それが耐久性につながります。
(5)洗う:
専用の洗い場があり、そこで水に浸され、クワのようなものを使って力いっぱいこすられます。
こちらもモッタイナイ!と感じますが、ほつれないくらい丈夫なのがギャッベなので大丈夫なのです。
ちなみに、洗う時には水と石けんを使用しますが、色落ちしないとのこと。また、洗う前に一度検品されます。ここで基準以下の物ははねられてしまいます。
(6)乾燥させる:
天日干しされます。
イランの高地は一日の寒暖差が非常に大きく、昼間は40度を越え、夜間は氷点下、ということも珍しくないそうです。
このような過酷な状況下でも日常の使用に耐えられる織物がギャッベなのです。
(7)毛足の調整:
出来上がりはもうすぐ!
もう一度毛足を整えるために、刈りこみ作業が行われます。これを行うことで織物の柄がしっかり浮き出てきて、美しさが際立つのです。
この作業は、シャーリングと呼ばれています。
(8)最後の調整:
ここまでの段階を経てたくさんの手が入れられてきたギャッベ。
最後は湿度の高い部屋に置いて最終調整をします。
ここでは、毛を膨張させてゆがみをとる作業を行います。使用しているのは天然の羊毛です。湿度によってその状態や性質が変わることを利用した作業であると言えます。
4.ギャッベとその歴史 ギャッベとはペルシャ語で「粗い」の意味
(photo photoAC )
ギャッベを織るカシュガイ族の過酷な環境と失われない肌触り
今では世界各地で人気が出ているギャッベですが、もともとは、遊牧民カシュガイ(またはキャシュカイ。Ghashghai)が自分たちの生活の中で使ってきた物です。
彼らの住む南ペルシャは寒暖の差が大きく、また、カシュガイ族は、冬はペルシャ湾近辺の牧草地、夏はザグロス山脈で放牧をしていて、ギャッベは寒い夜や暑い日中から身を守るために使ってきた織物なのです。
丈夫でなければ過酷な環境の中、使い物になりません。しかし、人が肌に掛けたり、下に敷いて座ったりして使うものなので、肌触りは無視できません。
ギャッベの織りは厚めです。そして、毛足は整えられているとはいえ、粗さがあります。
これらにはきちんとした理由があります。テントの中に敷くには厚さがなければ使い心地が悪いということ。そしてギャッベとはペルシャ語で「粗い」という意味があるということ。
一つ一つに意味があり、ギャッベ一つ一つに思いが込められているのです。
もともとギャッベはシンプルで抽象的なデザインが特徴的で、サイズは90センチ×150センチくらいかこれ以上のものとされてきました。
ギャッベとペルシャ絨毯の違い
ギャッベの最初の記録は、16世紀ころだと言われています。イラン南西部Farsi地方の遊牧民、カシュガイ族によって羊毛やヤギの毛から作られ始めました。
一方のペルシャ絨毯は、ペルシャ絨毯のお値段のページでも述べましたが、紀元前500年頃には、絹製の最高級品が王族などへの献上品として作られてきました。ギャッベに比べ、細い糸を使った複雑な柄や綺麗に揃えられた繊維などを持ち、長い年月をかけ洗練されてきました。
ペルシャ絨毯は非常に高級品で、貢ぎ物としての歴史がありますが、ギャッベはそもそも織り手たちが日常生活で使うために織られてきたものです。ですので、抽象的なデザインやシンプルなデザインでよく、耐久性が重要なのです。
イランには他にも粗い絨毯を織る様々な部族がいて、例えばイラン南東部で半遊牧民生活を送るアフシャール族(Afshar)の作る、Afshariという絨毯や、遊牧民のクルド人の作るKurdsという絨毯などがあります。
ですので、ギャッベのことを、粗く織られシンプルなデザインを持つ、丈夫な遊牧民絨毯の総称としていることもあります。
その場合には、カシュガイ族の織るギャッベのことを、「Qashqai」「Gashghai」「Gaschgai」、「Kashgai」などと書いて区別します。
ギャッベでは、女性や子どもたちによって集められた植物などが昔から染色の原料とされ、クリーム色、明るい茶色、黒などを含む、たくさんの色が使われてきました。
羊毛に色を付けると、かすかなバリエーションが出ることが、自然の原料を用いた大きな理由です。
ここまでをまとめると、ギャッベの本来の必須要素は、
・粗くはあるが羊毛独特の優しい肌触りであること
・織りには厚みがあること
・自然の色であること
とされています。
可憐な織り手たちと世界的な評価の獲得
本来、ギャッベは独身者、特に女性が作るものとされてきました。
彼女たちは、囲いのない暖炉の前、水場、ゆりかごの前などと織り機を置く場所を移動させながら織る作業を進めてきました。
ギャッベは販売するためではなく、家庭内で使うために織られることが本来の伝統で、下に敷くマットや肌の上に羽織る掛物として使ったり、もしくは馬に乗るときの鞍に掛けたりして使われてきました。
たくさんある使用法のうち、特に重要視されたのは、睡眠時の毛布としてでした。これは、ギャッベが生み出された場所の自然環境と、ギャッベの特徴である「長さが適度にあり、羊毛の柔らかな肌触りがあること」から理に適った使い方だったのです。
しかしその後、1980年代ごろから、西洋のコレクターにより、ギャッベに対する人気が高まってきました。ここには、ミニマリズムを伴う美学の共用や、モダンアートにおける色彩地の変化、そして、ギャッベ絨毯のその時代の評価が存在していました。
商業化と大量生産 映画「Gabbeh」の影響
その結果、ヨーロッパやアメリカの家庭市場向けに、インドやその他の地域で、時に合成物質を用いて着色を行い大量生産されたギャッベが登場しました。
値段が手ごろになったため、ギャッベの高い需要をもたらしました。
(photo photoAC )
ギャッベを作っている遊牧民族はたくさんいますが、海外市場に向けてのみ仕事をしている民族の織り手たちもいます。
商人たちは新しいモチーフを探しているので、ギャッベのデザインは時として織り手に変化をもたらしてきました。変化を受け入れてきたのです。
19世紀の終わりごろには、伝統製品でありながら、海外の要求を受け入れる形で、ギャッベは変化を遂げていきました。基本的なデザインは保持しながらも、機能的な変化などが伴ってきたのです。
また、デザイン性を高め付加価値をつけ、アートギャッベという呼び名で売られるギャッベ絨毯が生産されるようになりました。
その後、更にギャッベの流行に勢いがつきました。その名も「Gabbeh」という映画が登場したのでした。
映画の中には、人生を祝福する象徴的なモチーフとして、織物が繰り返し登場しています。暗闇の恐ろしい力に対して、鮮やかな色という対比を用いてストーリーの中で大きな影響を与えています。
映画には、Gabbehと名付けられたある種族の女の子が登場します。織物と同じ名を持った彼女に焦点を合わせ、人生の溢れる活気やはかなさを表現しているというストーリーです。
この映画は、種族の中で送る単調な日々の現実からは程遠い、熱烈なロマンで溢れています。
ギャッベの流行を作り出すバイヤー
ギャッベの最先端の情報を提供しているのは、ドイツやイタリアのコレクターやバイヤーたちです。
以前は、ギャッベという織物にはほとんど市場価値が無いとされてきました。もともと家庭用に作られていたために、市場に出回ること自体がほとんど無かったので、ある意味自然なことかもしれません。
しかし、例としてペルシャ絨毯のようなものから比べると、ギャッベはやはり販売を目的にするには粗雑なものと捉えられてきました。
5.まとめ
ギャッベには古い歴史があり、それらを積み重ね、今では日本国内でも数は少ないですがお目にかかることができるようになりました。
カジュアルなマットにも「ギャッベ風デザイン」などとそのモチーフが言葉として使われるようにもなってきました。
ギャッベは、ペルシャ地域の大草原の中で遊牧民によって実用的に育まれてきた、数々の手腕の賜物なのです。そして、非常に古い歴史と伝統を持っているものなのです。
ご自宅で利用されるときには、ギャッベを生み出した遊牧民の生活様式にも思いを馳せてみてください。
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