太宰治 走れメロスのあらすじ│あなたは友情をどれだけ信じますか?
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最終更新日:2023/08/30
太宰治(Dazai Osamu), 文学(Literature), 本(Book)
太宰の名作「走れメロス」のあらすじです。
この作品は、命を懸けてくれている親友との約束を守ろうと次々と困難を乗り越えるメロスと、そのメロスとの固い友情を信じて自分の命を差し出す親友のセリヌンティウスとの、息もできないほどの物語です。
1.シラクサの市
実直な牧人の青年メロスは、妹の結婚式の準備をするために、村から十里離れたシラクサの市を訪れた。メロスの両親はすでになく、十六になる妹と二人暮らしなので、結婚式の花嫁衣裳やご馳走の準備をするのは彼の役目であった。
未明に村を出発し、買い物を済ませると、既に夜になっていた。シラクサにはメロスの竹馬の友セリヌンティウスが住んでいる。二年前に会ったきりなので、久々に訪ねていくのが楽しみであった。
2.ディオニス王の暴政
しかし、市の中を歩いていくうちに、メロスは妙なことに気が付いた。二年前に訪れたときはにぎやかで活気があったのだが、今は市全体がやけに寂しくひっそりとしている。
道を行く若い衆に事情を尋ねても首を振るばかりで答えはない。メロスは次に出会った老爺(ろうや)をつかまえ、強く問いただした。
老爺があたりをはばかって低い声で語るには、この町を治めるディオニス王が人々を次々と処刑しているためだという。最初は妹の婿、次は自分の嫡子、妹、妹の子を処刑し、さらには皇后や臣下のアレキスも殺した。乱心しているわけではなく、強い人間不信に陥っていることが理由のようだ。
市民でも裕福な暮らしをしている者は人質を差し出さなくてはならず、命令を聞かなければ磔にされてしまう。今日も六人が処刑された。
3.三日間の猶予
事情を聞いたメロスは激怒し、買い物を背負ったまま単身で王城に乗り込んだ。だが、すぐに見つかって捉えられ、懐に短剣を呑んでいたことから大騒ぎに発展した。メロスは王の前に引き出され、何をするつもりであったのかを尋問された。
市を暴君の手から救うのだと答えたメロスのことを、十字架にかけられることになれば同じように命乞いをするだろうと王はあざけった。
メロスは死ぬことを恐れてはいなかったが、ふと妹の結婚式のことを思い出し、三日間だけ自分に猶予を与えてくれるように頼んだ。人質として親友のセリヌンティウスを差し出すので、三日以内に妹の結婚式を見届けて帰ってくることにした。
王はメロスが戻ってくるはずがないと考えたが、セリヌンティウスを処刑することで、人を信じることがいかに愚かしいことであるかを証明する思惑で、メロスの提案を受け入れた。事情を聞いたセリヌンティウスも、躊躇なく人質となることを承諾した。
4.帰還
市を出たメロスは一睡もせずに道を急ぎ、あくる日の午前には村に戻った。メロスは妹に、シラクサにやることを残してきたので、明日結婚式を挙げるように勧めた。メロスはすぐに準備に取り掛かり、終わったとたん深い眠りに落ちた。
深夜に目を覚ましたメロスは花婿にも結婚式の日程変更を伝えた。花婿は驚き、せめてブドウの季節まで待つべきだと主張したが、夜明けまで話し合った結果メロスに説得され、式を行うことを了承した。
その日の昼には結婚式が行われ、夜には雨が降ってきたので屋内に場を移しつつ宴が続けられた。メロスは新たに夫婦となった二人に祝福の言葉を述べ、明日の死への旅に備えるために床に入った。
5.待ち受ける困難
翌朝になると雨も小降りになり、メロスはシラクサへと走り出した。日が高くなるころには十分な余裕を持って道半ばまで来ることが出来たが、先日の大雨で橋が流されて道が途切れていた。船も無いので、メロスは濁流に飛び込み、必死になって川を泳いで渡った。
日が西に傾きかけたころになって峠に差し掛かると、今度は山賊が立ちはだかった。奪えるものがないなら命をもらおうと向かってきた山賊だったが、メロスは相手の棍棒を奪って殴り倒し、残りがひるんでいる間に峠を駈け下りた。
6.挫折しかける心
危機は乗り越えたが、濁流と山賊の襲来に加え、激しい日差しによってメロスの体力は限界を迎えていた。ついに動けなくなって倒れ込み、心も萎えて、どうでも良いという思いに囚われてしまった。友への詫びの言葉を思いながら、自己嫌悪と共にあきらめたメロスは、わずかの間だけまどろんだ。
7.決死の走り
倒れたメロスは湧き水が染み出る音で目を覚ました。水を飲んでわずかに体力を回復したメロスは気力を取り戻し、先ほどまでの思いを消し去って走り始めた。日がどんどん沈んでゆく中、颶風(ぐふう)のように、ほとんど裸になり、口から血を吐きながら走り続けた。
シラクサの市の外れまでたどり着いた時、セリヌンティウスの弟子フィロストラトスが現れ、セリヌンティウスが刑場に引き出されたことを告げた。セリヌンティウスはメロスが戻ってくることを信じて疑っていない。フィロストラトスはあきらめるように進言するが、メロスは死力を尽くして走り続けた。
8.人間の信実
日が完全に沈む直前、メロスは刑場にたどり着き、十字架に引き上げられているセリヌンティウスの足元に縋りついた。それを見た人々はメロスを称賛し、セリヌンティウスを解放するように声を上げた。
メロスは道中で一度あきらめかけた自分を殴るようにセリヌンティウスに頼んだ。それに応えたセリヌンティウスは、一度だけメロスを疑った自分を殴り返すように頼んだ。
互いに殴り合った友は抱き合い、うれし泣きに泣いた。それを見ていたディオニスは、二人が人間の信実さを示し自分の猜疑に満ちた心に打ち勝ったことを認め、自分も仲間に入れてくれるように願った。
民衆は歓声を上げ、王を称えた。
9.まとめ
「走れメロス」の最後には「古伝説とシルレルの詩」からという記述がある。シルレルは18世紀のドイツの詩人フリードリヒ・フォン・シラーのことで、彼が作詞したバラード「人質」を元ネタにしていることを指している。この「人質」は、残虐で猜疑心が強い史上最悪の暴君の一人とも呼ばれた、紀元前4世紀のシュラクサイ(現シラクサ)の王ディオニュシオス1世の物語である。
また、多くの太宰作品と同じように、「走れメロス」のストーリーも太宰本人の体験が元になっているとされる。
太宰が熱海の旅館に入り浸って帰ってこないことを心配した妻は、太宰の友人で小説家の檀一雄に様子を見てきてもらうように頼んだ。檀が交通費と宿代を預かって熱海を訪れると、太宰は檀を引き留めて連日飲み歩き、金をすべて使い切ってしまう。そこで、太宰は宿賃のかたとして宿に残ってくれるように頼み、自分は東京にいる井伏鱒二のところに借金をしに行った。
だが、数日待っても太宰は戻らず、いぶかしんだ檀が宿と飲み屋に支払いを待ってもらって様子を見に行くと、太宰は井伏とのんきに将棋を指している最中だった。太宰は これまで井伏にいろいろと迷惑をかけており、借金の申し込みを口に出来ないまま時間が過ぎてしまったとのことだった。
激怒しそうになった檀に対し、太宰は「待つ身が辛いかね。待たせる身が辛いかね。」 と言ったという。檀は「走れメロス」が発表された時、熱海の件がこの作品を書く上での心情的なきっかけになったのではないかと評している。
戻ると言って友人を人質として残していく点は同じだが、太宰のエピソードと作品の中身は180度逆になっている。執筆のきっかけになったエピソードからすると、メロスが途中であきらめて投げだしてしまいそうになった心の動きこそが現実で、信念と誇りをかけて走る様子は空想でのみ存在し得る理想像であると見ることが出来るだろう。
10.余談
余談だが、本作のパロディの一つに、漫画家のながいけん氏による「走れセリヌンティウス」という作品がある。基本的な筋書きが同じでありながら、メロスが悪人、王が善人となっており、セリフも言葉を入れ替えで利己的な部分が前面に出され、ブラックユーモアあふれる作品として仕上がっている。
短編作品集「チャッピーと愉快な下僕ども 大増補版」に収録されているので、興味がある人はぜひ読んでいただきたい。
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