有吉佐和子 紀ノ川のあらすじ│たくましく生きる女たちの物語

紀の川は、一流のストーリーテラーとして知られる有吉佐和子の代表作で、1959年に発表されました。題材としたのは、自身の家系で、経験をもとに書かれているという点が現実味があり、人々を惹きつけています。

紀州の旧家に生まれた、世代の異なる女たちの荒波にもまれる生き様は、読んでいてぐいぐいと惹きつけられ、映画やTVドラマ、また、外国語にも翻訳され、今なお親しまれています。

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1.花の結婚

紀ノ川上流に位置する九度山の旧家紀本家に生まれた花は、早くに母を失ったが、祖母豊乃の手によって教養深く優美に育てられた。孫娘を熱愛していた豊乃は、近隣に聞こえるほど美しく育った孫娘の縁談に難癖をつけ続けた。

花が二十歳を迎えるころ、ようやく豊乃と花本人が強く望む縁組が決まる。相手の真谷家は紀ノ川のずっと下流の六十谷(むそた)にあり,家の格からいえば、それまで降り注ぐほどあった縁談の中では高いものではなく、花の父で豊乃の息子である信貴はそれを理由にこの縁談に反対するが、豊乃は縁談相手の真谷敬策の俊敏さを盾にこの縁談を認めさせてしまった。

花の教育にも金銭を惜しまなかった豊乃は、嫁入り道具にも贅を尽くす。
嫁入りの朝、九度山の慈尊院で七十六歳の祖母豊乃と二十二歳の孫娘花は別れを惜しんだ。
豪奢な嫁入り支度で紀ノ川を下り、花は真谷敬策に嫁いだ。

真谷家は、紀本家に比べても行儀や教養の点で落ちる点が多く、花は落胆し戸惑うが持ち前の賢さで舅姑にもよく仕え、新進気鋭の村長である夫の敬策とも琴瑟(きんしつ)相和(あいわ)した。ただ一人、敬作の弟の浩策は病弱な本の虫で気難しく、さすがの花もその扱いに手を焼いた。舅姑も浩策の偏屈ぶりを嘆くが、花は夫の敬作が真谷家の格を支えている「ちょうふくいん(長福院) 」の院号を弟に譲ると言い出したことに驚く。

明治二十三年の十月、花は長男の政一郎を出産する。四年後、長女の文緒を出産。文緒を身ごもった際、花が安産祈願で里帰りしたのが花と祖母豊乃の最後の対面となった。文緒誕生と同じころ、豊乃が亡くなる。政治活動を精力的に始めた敬作は、女児の誕生に落胆するが、花は文緒を豊乃の生まれかわりとして育てる決心をする。

敬策は、浩策が実は花に恋していると告げ、花という妻にも才能にも恵まれた自分は弟に家産を譲ることはなんでもないと語る。そして、病弱で働く気のない浩策に真谷家の財産を分与することにし、自身は政治家としてたつ決心をしたことから、真谷家の所有する山や豊かな田地の多くを譲ってしまう。真谷家の不動産が敬策の政治活動の支柱に成ると信じていた花は動揺する。浩策は新池と呼ばれるあたりに瀟洒な家を建てて、気楽な一人暮らしを始めた。

文緒を出産した産褥(さんじょく)から回復した花は、長男の政一郎から浩策の家に女中がいることを聞き、彼の家を訪れる。その女中ウメを浩策が愛し始めていることを知った花は、ウメの妊娠を機に彼女を真谷の本家に預かり浩策の家に嫁入りをさせる形をとった。

敬策は、弟のこの不始末を恥じて県会議員に出馬することを断念するが、村の人々は花の賢い処し方に感心し真谷家を非難することはしなかった。ただ、浩策だけは花のそつのない処世術を疎み(うとみ)へそを曲げる。

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2.花と文緒の確執

長女の文緒が県立和歌山高等女学校に進むころには、敬策は県会議長や県農会長など数え切れないほどの要職に就いていた。内助の功を発揮する花との間には、政一郎、文緒の他に次女和美、三女歌絵、次男友一が生まれた。

政一郎も文緒も学業成績は抜群で、政一郎は東京の第一高等学校に進学する。女学校に通う文緒は、男勝りの性格で頭脳は明晰であるものの母の花や学校には反抗的な態度を崩さない。文緒は花が望む優美な女性像を軽蔑し稽古事も放擲(ほうてき)し、新しい女性像にあこがれて東京進学を希望していた。

花に反抗する文緒は、結婚以来花とはほぼ絶縁状態の叔父,浩策と仲がよく、二人は意気投合している。浩策は文緒に「お前はんのお母さんは、云うてみれば紀ノ川や。見かけは静かで優しゅうて、色も青くて美しい。やけど、水流に添う弱い川は全部自分に包含する気や」と語る。

花にとっては、文緒以外の子供はみな従順で自分の意のままになるのに、文緒だけが思うようにならないことに焦(じ)れ、更年期と重なり常にない狂態を見せてしまう。

文緒が望む東京進学を花は最後まで反対するものの、敬策はあまり深く考えずに許し、文緒は東京女子大学に進学する。いっぽう敬策は政治家として順調にキャリアを重ね、政友会から衆議院議員に当選する。和歌山市内の真砂町に豪壮な邸を構え、花も政治家の妻として多忙な毎日を送ることになった。

東京にいる文緒が増長していくのを危ぶんだ花は、文緒を早く結婚させようと試み、上京する。文緒は東京で女権運動に奔走し、花が勧める和歌山の地主や名家の息子たちとの縁談を軽蔑する。

和歌山へ戻った花のもとに、東京で文緒の後見を頼んでいる田崎夫人から手紙が届く。夫人のお膳立てで、文緒は貧乏士族の次男晴海英二と出会い結婚を決めてしまう。花はまったく親が介入できない縁談に不満を示すが、文緒は東京で晴海英二と結婚。新婚夫婦の新居や生活費全般は嫁の実家である真谷家が負担する結婚生活であったが、文緒は両親に感謝もせず新たな生活に意気込む。味気ない思いで花は夫と和歌山に戻る。

婚礼支度にまで文句をつけてきた文緒ではあるが、彼女が妊娠すると花は文緒には告げずに自分の時と同様に九度山の慈尊院に安産祈願に赴く。文緒は東京の赤十字病院で長男和彦を出産した。

晴海英二が上海に転勤になると、文緒も長男を連れて洋行するが、その地で生まれた次男晋(すすむ) を失う。そして花も、大和の名家楠見家に嫁いで僅か一年の次女和美に先立たれた。

その後、再度妊娠した文緒は、ニューヨークに赴任する夫にはついて行かずに出産のために和歌山に戻ってくる。次男を失っていた文緒は、それまで軽蔑していた迷信にも耳を貸すようになり、花とともに九度山に安産祈願に出向く。花が生んだのは未熟児の女の子で、「華子」と名づけられた。

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3.戦中戦後の真谷家

華子を出産した文緒は、その後夫の赴任に伴いジャバに住む。三十代も半ばを過ぎて現地で再び妊娠した文緒は、次男を失った経験から出産のためにまた日本に戻ってくる。

未熟児として生まれた華子は九歳になっていたが病弱であった。外国育ち故か日本の花のもとに身を寄せても見るもの聞くものにまるで外国人のような反応を示す。敬策は還暦を迎えてますます政治家として多忙であり、花も精力的に夫を助ける。その忙しい合間をぬい、久々にあった孫たちと穏やかな日々を過ごす。文緒は、無事に三男昭彦を生んだ。

六十代も半ばに達していた真谷敬策は、仕事のために出向いた東京で突然,客死する。花は夫の死に際しても取り乱さず葬儀を出すが寂寥は免れない。

長男政一郎は東大を出たあと銀行員となっていたが覇気に欠ける性格で、やり手であった父のあとを継ぐ意志もなく美貌の妻との間に子供もいなかった。次男の友一もサラリーマンとなってしまっていたため、花は真砂町の邸を売り払い六十谷に引き上げる。父の待つジャバに戻った華子は、手持ちぶさたとなった花と文通を始める。戦争が激しくなると、それまで行き来のなかった浩策も花を訪ねて無聊(ぶりょう)を慰めるようになる。

第二次世界大戦が始まり海外での仕事がやりにくくなった英二は、家族を連れて日本に戻ってきた。次男友一の結婚のために上京した花は、帰国した晴海家に身を寄せる。戦争が激しくなり衣料も手に入らなくなってきたが、花は着物を着たこともないという華子にいくつかの着物を買い与えた。

戦局が苛烈になった昭和十八年、文緒は華子と末っ子の昭彦を六十谷に疎開させる。花のもとには、三女歌絵の子供たちも疎開してきたが、長男と次男はそれぞれの妻の実家に身を寄せており、昔気質の花には息子たちを嫁に奪われたことが我慢できない。

文緒の長男にも赤紙が来、和歌山も連日空襲におそわれるようになる。やがて和歌山城も空襲で燃え、終戦を迎える。

華子は終戦とともに東京に戻るが、母の文緒とともに食料調達に奔走する日々が待っていた。祖母に買ってもらった美しい反物も、食料に代えざるをえなかった。自らは着物に執着を持たない文緒も、自分の青春時代とはあまりにかけ離れたわびしい青春を迎えた華子を憐れむ。

六十谷では、農地開放で財産らしいものはすべて失った真谷家に、花と女衆の市(いち)がつましく暮らしていた。一方で浩策は、相続した山の木材を売り,投資にも通じていて、本家とは比べものにならないほど豊かな生活をしている。妻のウメを失った浩策は、花がもう手に入れることができない高価な雑誌や食料などを持って本家にたびたびやってくるようになった。

戦後の混乱の中で、文緒の夫晴海英二が力尽き亡くなった。苦学して大学を卒業した華子は、出版社に就職する。貧しく慌ただしい生活でも、華子はこまめに花に手紙を送り、花もそれに応えた。

昭和三十年を迎えるころ、花が脳溢血で倒れる。戦前と趣(おもむき)を変えない六十谷には、妻を失った政一郎も寓居(ぐうきょ)していた。文緒も花の見舞いに駆けつけるが、荒れ果てた真谷家を見て慄然とし、東京に舞い戻ってしまう。

文緒と入れ替わるように、和歌山行きのために貯金をしていた華子は花のもとに向かう。脳溢血で床に伏していても、花の記憶は鮮明で華子に自身の人生の来し方をかたる。長男政一郎に絶望していた花は、もう真谷家のために尽くすことはやめ、僅かに残った財産を自分が生きているうちに費消(ひしょう)しようとする。花のそうした思いもどこ吹く風で、やもめの政一郎は華子の挑発にまったく応えようとしない。

田舎の生活と、花の長引く病に倦んだ華子は東京に戻る決心をする。帰途、和歌山城の天守閣に上り紀ノ川と真谷家を望遠鏡から眺めて物語は終わる。

4.まとめ

悠々と流れる紀ノ川のようにたくましく生きる女たち。明治、大正、昭和と移り変わる時代に飲まれることなく激動の日々を生き抜いてゆく。

紀ノ川の流れと美しい紀州弁、右往左往する男たちと対照的に泰然と生きていく女性たちのたくましさが印象的なこの作品は、有吉佐和子が若干28歳にして書き上げたもので、女史の代表作の一つといえる。戦後世代の華子は著者自身がモデルと云われていて、紀州の素封家(そほうか)の栄枯盛衰がリアルに描かれており、まったく古さを感じない名作である。

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